シルバーの光沢に圧倒される、「コム デ ギャルソン・オム プリュス」の2021年春夏コレクション
まだ梅雨が続く7月28日、コム デ ギャルソンの南青山にある本社オフィスで、コム デ ギャルソン・オム プリュスの 2021年春夏コレクションが、ミニショーの形で披露された。プレスなどの関係者を集めて行われたが、三密を避けて少人数での開催となった(後で知ったがこの日、我々プレス、バイヤーなどにむけて、3ステージが行われた)。
私がコムデ ギャルソン・オムプリュスのショーを見るのはこれで3回目。前2回はもちろんパリで。実は今年は久しぶりにパリに行こうかと考えていた。もう歳なので動けるうちにと、プレスの方からもショーの日取りも聞いていた。それがこのコロナ禍だ。行けるはずもないが、パンデミックのおかげ(?)で、願ったショーが東京で観られるという幸運が舞い込んできた。
ショーがスタートする前、そんなことを考えていたら、白い背景にフォトジャーナリスト、アルベルト・ビタールが手がけた映像とともにショーが始まった。
シルバーのメタリックな生地を纏った5人組が登場する。いきなりのシルバーだ。しかも全身。「私が内装デザインに多く使用するメタル素材は、表現したいことを大変良く助けてくれる素材です。今回、服にその強さを取り入れたいと考えました。メタルそのものを使うわけでなく、メタルの強さ、重量感、様々な光沢を表現できる素材を用いて、このテーマをまとめました。メタルの強さ、どんな圧力にも負けない強さに、今直面する、難題を乗り越え、希望を生む強さを重ねたコレクションになれば良いと思います」
後で入手した資料にはデザイナー、川久保玲さんからのコメントがこう寄せられている。
全身シルバーの後は、ネイビーやグレーとシルバーの組み合わせ、得意のライダースジャケットが登場する。重ね着しているように見えるジャケットと合わせたのは、シルバーの膝上ショーツだ。足元は、最近このブランドがお気に入りのナイキのハイカットを履く。白とシルバー、鮮やかなブルー、グリーン、イエローとシルバーのスタイリングが続いた後は、いよいよエンディングだ。黒とシルバー、しかもそれをフォーマルテイストでまとめられ、見事という言葉しか見つからない。「METAL OUTLAW(メタル・アウトロー)」と名付けられた今回のコレクションはわずか8分のショーではあったが、十分濃密で満足ができる内容だった。
もう一度今回のコレクションの服をじっくり見てみたいと思い、展示会の最終日に再び会場を訪れた。
ショーではシルバーの光沢に圧倒されてしまい、ディテールまでよく見えていなかったが、近くで見ると、同じシルバーでも生地は色々だ。全体にシワ加工を入れたもの。プリントをかけたもの。ヘリンボーンタイプはかなり厚手の生地に仕上がっている。これだけのシルバーの生地をつくるのにはかなり時間がかかるはずだ。いつから今回のショーの準備を始め、テーマを決めたのだろうか。縫製にしても独特でアトリエ的だ。たとえばジャケット。一度、大きなジャケットを仕立てて、それを折り畳むようにしてそこにステッチをかけている。こういう生地やディテールは近くで見ないと絶対にわからない。だからこそ服を間近で見て、触ってみる必要がある。
コムデギャルソン・オムプリュスの服を見ると、いつも自分自身が問われている感覚が付き纏う。
「どう、この服、あなたは着られますか?」 「今回のコレクションはあなたが思い描いていたものと同じですか? それとも逆でしょうか?」
例年のコレクションでもそんなことを考えてしまうのに、今回のようなパンデミック後、しかもシルバーを多く取り入れているならなおさらのことだ。
上のように問われた気がした私は、果たしてどのシルバーを着ることができるだろうか? 着こなせないまでも、一度は袖を通してみたいと思うのが服好きの性。しかしそれは来春まで待つしかない。
私の人生で手にすることがなかったシルバーの服に対して、とりあえずの免疫をもつために、購入を迷っていた黒にシルバーのラインが入ったスニーカーをポチッと。この靴を履いて来春のコレクションの服を待つことにしよう。